「口の終 い」がキーワード
最後ま食べることを
目指す高齢者の口腔ケア
平成元年から始まった「80歳で20本の歯を保とう」という8020運動。約30年で達成率50%以上となり、多くの高齢者が歯の健康を維持できるようになりました。その一方で、「介護が必要になった段階で歯の健康をどう維持していくか」「全身状態を踏まえた、その人にとって最適な口内終活とは?」など、高齢化に伴った新たな課題も生まれています。
熊本県歯科医師会
副会長
松本 信久さん
「口の終 い」がキーワード
最後ま食べることをで
目指す高齢者の口腔ケア
平成元年から始まった「80歳で20本の歯を保とう」という8020運動。約30年で達成率50%以上となり、多くの高齢者が歯の健康を維持できるようになりました。その一方で、「介護が必要になった段階で歯の健康をどう維持していくか」「全身状態を踏まえた、その人にとって最適な口内終活とは?」など、高齢化に伴った新たな課題も生まれています。
熊本県歯科医師会
副会長
松本 信久さん
高齢者の口内トラブルは
増加&複雑化傾向
「8020運動の取り組みによって多くの歯が残せていることは喜ばしいことですが、そのことが虫歯や歯周病、誤嚥性肺炎の一因になる場合も多いため、介護の現場でもますます口の中の健康管理が大切になります。また食べることによって口腔内は自浄され唾液によって義歯も安定しますので、多職種連携により口から食べさせていくことが口腔健康管理には重要です」と松本先生。歯科医師が治療として行う口腔機能管理、歯科衛生士が専門的ケアとして行う口腔衛生管理、そして介護の現場での日常的な口腔清掃や食事の準備など、これまで以上に多職種の連携が必要になっているのです。
では口腔ケアがおろそかになるとどうなるのでしようか?「まず活舌の低下・食べこぼし・軽いむせ、噛めない食品の増加といったオーラルフレイル=ささいな口腔機能の衰えから始まり、口の中の不調を放置することで噛めない⇒軟らかいものの摂取⇒咀嚼機能低下という悪循環になり、そして食欲の低下・口腔機能の低下から全身の健康や栄養状態に影響を及ぼすことが明らかになっています。さらに認知症や寝たきりになった場合、口の中を確認すること自体が難しくなることもあり、その前の段階から口内の把握をしておくことが重要です。要介護者の約9割は何らかの歯科治療が必要ですが、実際の受診は3割にも満たないのが現状です」。
介護現場で実際にあった歯のトラブル
- 認知症の男性が発熱。原因が分からず調べたところ、誤飲した入れ歯がのどに引っかかっていたことが判明。
- 介護施設に入所した際に自分の歯であるという申し送りだったが、実は入れ歯だった。
そのため入所以来、入れ歯のケアが一切できていなかった。 - 寝たきりでくいしばりが強い高齢者。尖った歯が唇に刺さり、そこに潰癌が発生していた。
コミュニケーションや適切な
ケアグッズで痛みや不安を軽減
そもそも口腔ケアの目的は、汚れを取る・唾液を促す・舌の動きを良くすることです。「特に高齢者にとっては飲み込みを維持することが大切。そのためにも消化を助けるための唾液分泌、また飲み込む力を生む舌圧も大切なポイントです」と松本先生。そして実際に高齢者の口腔ケアを行う場合、いくつかの秘訣があります。「認知症の方にとっては、予期しない接触は不安が大きいものです。最初から口の中を見るのではなく、首や肩回りをほぐしてまずは当事者をリラックスさせましよう。また口の中だけではなく、口の周りや頬、またおでこなども軽くマッサージして表情筋を刺激することも忘れないでください。こうやって口の中のケアを続けると、表情が豊かになっていく方もいらっしゃいます」。
また薬の影響で出血がしやすい・乾燥で刺激に弱いなどの問題を抱える高齢者の口腔ケアには、専用の歯ブラシや保湿ジェルなど、適切なケアグッズの準備も大切。痛みや不安をできるだけ取り除きながらの処置を、目指していきましょう。
重要なのはかかりつけ
歯科医と認知症初期の受診
とは言っても、入れ歯の不具合や飲み込みの衰えといった口腔トラブルは、兆しの段階から維持・予防することが最も重要です。その場合のポイントを、松本先生に聞いてみました。
「75歳になると、義歯の状況把握や飲み込む力を評価する反復唾液嚥下テストが含まれる後期高齢者歯科口腔健診が受けられます。その時にぜひ、かかりつけとなる歯科医を見つけておきましよう。
また認知症と診断されたら、意思疎通が難しくなる前にまずは歯科を受診して、口腔はもちろん既往歴や服薬状況も確認してもらうことがおすすめ。多く残した歯や入れ歯などの補填物が大きなリスクにならないよう、“口の終い”を考慮した管理が重要です」。
熊本県歯科医師会では、寝たきりなどで歯科に通院が困難な方の相談窓口「在宅歯科医療連携室」を設置しています。在宅や施設、医療機関問わず訪問歯科を必要としている場合は、ぜひ活用してください。
高齢者16,462人・かかりつけ歯科医の有無と
6年間累積生存率較差・性別
『かかりつけ歯科医師の存在とその後のQOL、生存維持との因果構造』